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小ネタ、感想、語り等置き場。現在は化物語(腐気味)中心です。☆『終物語(下)』までネタバレ有りです☆
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本当は誰のことも、待っていた事など無い。

 僕の所を意識的に訪ねて来る者なんて、九割九分九厘、厄介事を抱えた招かれざる客と相場が決まっているので――まあ、その中に未知なる怪異と遭遇した人間が混じっている可能性もある以上、裏を返せば九割九分九厘が歓迎すべき客と言うべきなのかもしれないけれど――僕個人の好みを述べさせてもらうならば、あまり人と関わりを持ちたくないなあという気持ちがあるわけで、とにかく、僕には待つべき人間なんていないという事が言いたいのだ。
なら何で、誰かを招き入れる度に待ってましたって挨拶で出迎えるんだって質問が投げられそうだけど、あれはどちらかといえば真逆の効果を狙ってやっている事なのだ。然して親しくも無い人間に、いきなり馴れ馴れしく自分のプライベートゾーンに間合いを詰められて、不快に思わない人間は中々居ないだろう。警戒を促すというか、ああ、こいつに深く関わりたくないなあと思って欲しいというか、そういう事だ。

我ながら、捻くれているとは思う。
 
拠点に選んだ場所は元々静かで、人の意識から取り残されたような所があって、結界を張った後はもう完璧だった。
人の住処の近くにあって仕事には好都合だし、それでいて誰の目にも止まらない、放っておかれる土地。
僕はこの廃墟を、いたく気に入っている。

とはいえ、何事にも完璧を期すというのは難しいもので、この場所にも、イレギュラーなキャラクターというのは存在する。
一人(というか一体・・・・と言ったら失礼か、いくらなんでも)は今日も階段の踊り場で膝を抱えている小さい女の子・・・・の形をした、怪異。
もう一人は、

「――あ」

噂をすれば影がさす。
学習塾跡というこの廃墟に巡らせてある、不可視の鳴子というかセンサーというか、例の大怪盗の孫の出て来るアニメ風に言うならば、赤外線のアレみたいなものが、反応したのが分かった。
侵入者有り、だ。
ここにあっさり入って来られる人間は、今のところただ一人、少し前に出会った、とある高校生しかいない。
彼は、前述の女の子に深く関わっている事情によって、望むと望まざるに関わらず、定期的にここを訪れる必要があるのだ。

月イチ位で。

「・・・・昨日の今日って」

どうも彼はちょっと常識とずれた心の距離感をお持ちのようで、本当なら可能な限り避けたいであろうこの場所に、頻繁に訪問してくるのだ。
彼女の事が気に掛かるのは理解できる。一言では説明しきれない複雑な経緯を辿ったけれど、今や彼らが肉体的にも精神的にも大いに依存し合う関係であることは間違い無いし、彼女の存在がここに縛られている以上(ちなみに縛っているのは僕)、様子を確かめようと思ったらここに来る他は無いのだから。

理解出来ないのは、彼が、彼女に会いに来るたびに、僕まで訪問していくという事だ。
そんな必要無いんだよ、と言ってあげたのだけど、いや、でも、来たのに挨拶しないのも何だし・・・・とか、ごにょごにょ言っていた。
しかも、律儀なことに大抵はミスタードーナツのお土産つきで。
育ちが良いんだろうか。僕はそういう儀礼的な事は、かえって面倒なんだけどなあ。

思いを巡らせている内に、僕のいる部屋に向かって、軽快なリズムが近付いてくる。
踊り場で一旦止まって――また近付く。
じとーっと彼を睨むしかしない(今のところは、だけど)彼女と、気まずい顔で見詰め合ってたんだろうなと思うと、何だか少し笑ってしまった。

やれやれ、面倒だけど無碍にするのも何だから、適当に相手をしてあげるとしようかな。
もう自分の耳でも聞こえる足音が廊下を渡って、引き戸が開けられる。

「やあ、遅かったね阿良々木くん、待ちくたびれ――」
「おう忍野! 今日は用事があるからもう帰るけどドーナツ買ってきたからはいこれ。忍がまた踊り場で拗ねてたけど今度は仲良く分けてくれ、じゃあ!」

ピシャッ、と。
来た時と同じ勢いで引き戸が閉められて、僕は固まった姿勢のままでそれを見送った。

・・・・いや、別に待ってなかったから、構わないけど。
ドーナツだけゲット出来たし、高校生の雑談に付き合うのも面倒だし。
いや、あの子も中々礼儀を弁えてきたじゃないか、感心感心。

「・・・・忍ちゃんの好きなのは、ゴールデンチョコレートだったよね」

別にわざとそれから食べてやろうとか、盛大に拗ねさせておくから次来た時に困ればいいじゃないかとか、思ってないし。
無言でドーナツのケースを開けて、もそもそと一つ口に運んだ。
知らないけど、何か黄色いトッピングのチョコのやつ。
口中に広がる甘いチョコの味に、溜息が出た。

「何だかなあ・・・・」

戸を開けた時の少し上気した顔や、ずかずかと僕の所まで歩いて来てすぐに身を翻した時の髪の流れが蘇るのはどうしたわけなんだろう。
重ねて、断じて、待ってなどいなかったし、がっかりなどしていないけど、どうもあの子にはペースを乱される気がして、困る。
僕はあの子が隣に座ったら、何か話すことでもあったのだろうか。

はーあ、嫌だ嫌だともう一度溜息をついて、ゴールデンチョコレート(あ、言っちゃった)を食べきってやった。
そうだ今度来た時こそはあまり馴れ馴れしくしないように言ってやろう意趣返しとかじゃなくて親切な忠告として言ってやろうと決意を固めていると、

「・・・・あれ?」

離れかけていた気配が、Uターンして、さっきの倍くらいの勢いでまた近付いてきた。

だだだだだ、とまた足音が聞こえ(廊下を走ると委員長ちゃんに叱られるよ)、もう一度、今度はえらい勢いで戸が引き開けられる。
果たしてそこには、何故かきっ、と口を引き結んだ少年が立っていて――。

「・・・・どしたの、阿良々木くん」

「やっぱり用事はもう少し後でも構わないから、僕もドーナツを貰うぞ忍野!」

仁王立ちで、胸を張って、どっかのSF小説のお姫様みたいに、戦勝宣言じみた調子で、言い放った。

「・・・・」
「・・・・」

顔が赤いし。

ああ、本当にこの子はもう・・・・。
内心、頭を抱えた。ちょっと上気、くらいにとどめておいてくれたら、僕だって心の中でフォローくらいはしてあげられたのになあ・・・・。

「用事はいいのかい?」
「っ、いいって言ったろ!」
阿良々木くんは大股で近づいて来ると、僕の隣の机にどかっと腰を下ろして、目を合わせまいとするかのようにドーナツの箱を覗き込む。
「やっぱり、ドーナツが食べたいと」
「そ、そうだよ、悪いかよ」
あー、お前、ゴールデンチョコレート食べちゃったのかー、なんて言いながら。

・・・・仏頂面のキャラ作りとかしてなくて、本当に良かったなあ。
にやにやしながら思う。

(まあ、いいか)

認めよう、僕はこの子が気に入ってしまったんだ。
どうしようもない子供だけれど、多分、だからこそ。

この街にいる間くらいは、仲良くしてもいいのだろうか。
友達居ないなんて言うけれど、こんなに人懐こい子の周りに、人が集まらないわけもない。何かのきっかけさえあればすぐに、彼の周囲は賑やかになるだろう。
だからそれまでくらいは。
彼が、自分を取り巻く世界の面白さに気付いて、僕を後回しにし始めるまでは、構ってもらうとしようかな。

「素直じゃないねえ、阿良々木くんは」
「むぐっ・・・・な、何のことだ忍野!」

*

それが、咽る阿良々木くんに呑気に笑っていた自分を僕が呪いたくなるまで、あと半月――くらいの日の出来事だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・あーあ。







まだ付き合ってないんだぜ、これ・・・・みたいな。

タイトルは、「君が為」様、『年下に恋する5つのお題』より。
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