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「――と、この辺が由来ってことになるのかな。『しでの』は、『死』に『出』ると書いて『死出』。しでのたをさが、しでのとりで――ホトトギス」
「・・・」
「まあこの怪異については、対処法といえるような法も無いというか、元々対処のしようが無いし、単なる雑学みたいなものなんだけどねー。でも、忍ちゃんや阿良々木くんはほら、不死身の怪異には縁がありそうだからさ。縁と言うか血縁もどき、うーん、そうか、対処法も何も、あの暴力陰陽師に対して阿良々木くんが使えそうな対応なんて、そもそも無いんだよなあ。あれはあれで、話し合いの通じる相手では無い・・・いや、意外と感情論でどうにかなったりしてね」
「・・・」
「阿良々木くんの出しそうな結論から言っても、情に訴える他に策は無しって感じだなあ。・・・しっかし、あの子の、こうと決めた時の揺るがなさって、おっかないよねー。君もそれの被害者なわけだけど」
「・・・」
「どこから来るんだろう、あの自信。普段はふらふら頼りないくせにね。ちょっと突っつけばよろよろしてるくせに。阿良々木くんの行動原理の根本に、『博愛』って太字で焼印でも押してあるのかと思ってたけど、何のことは無い、結局は、自分の手の届く範囲で、誰かが傷ついたり喪われたりすることに耐えられないだけなんだぜ。酷いエゴイズムだよ、全く」
「・・・」
「そういう所は、欠点でもあり、また不思議な事に人を惹き付ける要因になったりもするんだけどね。僕なんかからすると、正直、凄く苛々するけど、それは取りも直さず意識から外せない位には意識してるってことになっちまう。捻くれずに解釈すれば、阿良々木くんは普通に物凄く優しい子って事になるし、捻くれて考えても、あの自分を省みなさすぎる危なっかしさを放っておけないって思うかもしれないし」
「・・・」
「でも、人に好かれるのはいいんだけど――阿良々木くんのあの性質は、ロクなもんを引き寄せない気がするんだよなあ。モテるにはモテるけど、厄介な人間にばっかり好かれそうというか、結局苦労ばかりしそうというか。まあ――その辺はね、その辺こそ、阿良々木くんの周りに居る人や君が、無理矢理お返しする意味でも、フォローしてあげてくれたらいいなって、思っているけどね――」
「・・・のう、小僧」
「おお、忍ちゃんが喋ってくれた。良かった良かった。やっぱり、話し掛けたら返事が返ってきて欲しいものだよ。コールに対してレスポンスが無ければ、コミュニケーションが成立しないもんね」
「今更いちいち驚かんでええわい。――うぬのその、日本全国妖怪大図鑑じゃが」
「怪異の知識、って言って欲しいなあ」
「儂には全く以って不要の、その豆知識じゃが」
「『豆』を取ってよ」
「自分で雑学と言うとったじゃろが。ええい鬱陶しい、口を挟むな。――その知識、つまりは今後、有事の際には、この儂がうぬの代わりに我が従・・・(チッ)元従僕に披露せい、という事なのじゃろうが――その際、うぬの、あれへの考察というか意見というか思慕というか片恋というか・・・とにかくその面倒な問わず語りの部分は、割愛してよいのじゃろうな?」
「え、別に僕、阿良々木くんについてなんて話してないじゃん」
「なんと、そう来たか・・・」
*** ** * *
「お前様に儂の気持ちが(中略)あの軽薄極まりない小僧が(中略)何の役にも立たん怪異話を(中略)のべつ幕なしに(中略)黙って聞いてなければならなかったときの、儂の気持ちが」
「・・・」
「全く、もどかしいこと、この上無かったわ」
「は? 何か言ったか、忍」
「独り言じゃよ」
あの小僧、結局尻尾を巻いて逃げおって。
誰がお人よしじゃ。誰が、エゴイストじゃ。
*** ** * *
「小僧、儂はこう見えて中々寛容であり、情に脆い所があっての」
「自分で言うんだー、さすが忍ちゃんは大物だね」
「ふっ、そう褒めるな。儂はの、けなげな者には甘いんじゃよ」
「・・・ふうん。そういえばそうだね、阿良々木くんとか」
忍ちゃんは、そこで初めて僕のほうを向いて、薄く微笑んだ。
「そのけなげさに免じてな――護ってやるわ、その時が来たらの」
あの愚かな子供を。
うぬの代わりに、な。
「・・・うん、よろしく」
“英才教育”のくだりを読むたびに、どんだけだよ、忍野・・・ッ! と、身悶えします。
忍と忍野には、こっそり色々会話していて欲しい。
忍野さんはまあ、勿論、無意識なわけじゃないんだけど、忍ちゃんだけは阿良々木くんに洩らすまいと踏んでしゃべくっていたりする、ズルイ所があったりして。
タイトルは、「君が為」様、『年下に恋する5つのお題』より。
「・・・」
「まあこの怪異については、対処法といえるような法も無いというか、元々対処のしようが無いし、単なる雑学みたいなものなんだけどねー。でも、忍ちゃんや阿良々木くんはほら、不死身の怪異には縁がありそうだからさ。縁と言うか血縁もどき、うーん、そうか、対処法も何も、あの暴力陰陽師に対して阿良々木くんが使えそうな対応なんて、そもそも無いんだよなあ。あれはあれで、話し合いの通じる相手では無い・・・いや、意外と感情論でどうにかなったりしてね」
「・・・」
「阿良々木くんの出しそうな結論から言っても、情に訴える他に策は無しって感じだなあ。・・・しっかし、あの子の、こうと決めた時の揺るがなさって、おっかないよねー。君もそれの被害者なわけだけど」
「・・・」
「どこから来るんだろう、あの自信。普段はふらふら頼りないくせにね。ちょっと突っつけばよろよろしてるくせに。阿良々木くんの行動原理の根本に、『博愛』って太字で焼印でも押してあるのかと思ってたけど、何のことは無い、結局は、自分の手の届く範囲で、誰かが傷ついたり喪われたりすることに耐えられないだけなんだぜ。酷いエゴイズムだよ、全く」
「・・・」
「そういう所は、欠点でもあり、また不思議な事に人を惹き付ける要因になったりもするんだけどね。僕なんかからすると、正直、凄く苛々するけど、それは取りも直さず意識から外せない位には意識してるってことになっちまう。捻くれずに解釈すれば、阿良々木くんは普通に物凄く優しい子って事になるし、捻くれて考えても、あの自分を省みなさすぎる危なっかしさを放っておけないって思うかもしれないし」
「・・・」
「でも、人に好かれるのはいいんだけど――阿良々木くんのあの性質は、ロクなもんを引き寄せない気がするんだよなあ。モテるにはモテるけど、厄介な人間にばっかり好かれそうというか、結局苦労ばかりしそうというか。まあ――その辺はね、その辺こそ、阿良々木くんの周りに居る人や君が、無理矢理お返しする意味でも、フォローしてあげてくれたらいいなって、思っているけどね――」
「・・・のう、小僧」
「おお、忍ちゃんが喋ってくれた。良かった良かった。やっぱり、話し掛けたら返事が返ってきて欲しいものだよ。コールに対してレスポンスが無ければ、コミュニケーションが成立しないもんね」
「今更いちいち驚かんでええわい。――うぬのその、日本全国妖怪大図鑑じゃが」
「怪異の知識、って言って欲しいなあ」
「儂には全く以って不要の、その豆知識じゃが」
「『豆』を取ってよ」
「自分で雑学と言うとったじゃろが。ええい鬱陶しい、口を挟むな。――その知識、つまりは今後、有事の際には、この儂がうぬの代わりに我が従・・・(チッ)元従僕に披露せい、という事なのじゃろうが――その際、うぬの、あれへの考察というか意見というか思慕というか片恋というか・・・とにかくその面倒な問わず語りの部分は、割愛してよいのじゃろうな?」
「え、別に僕、阿良々木くんについてなんて話してないじゃん」
「なんと、そう来たか・・・」
*** ** * *
「お前様に儂の気持ちが(中略)あの軽薄極まりない小僧が(中略)何の役にも立たん怪異話を(中略)のべつ幕なしに(中略)黙って聞いてなければならなかったときの、儂の気持ちが」
「・・・」
「全く、もどかしいこと、この上無かったわ」
「は? 何か言ったか、忍」
「独り言じゃよ」
あの小僧、結局尻尾を巻いて逃げおって。
誰がお人よしじゃ。誰が、エゴイストじゃ。
*** ** * *
「小僧、儂はこう見えて中々寛容であり、情に脆い所があっての」
「自分で言うんだー、さすが忍ちゃんは大物だね」
「ふっ、そう褒めるな。儂はの、けなげな者には甘いんじゃよ」
「・・・ふうん。そういえばそうだね、阿良々木くんとか」
忍ちゃんは、そこで初めて僕のほうを向いて、薄く微笑んだ。
「そのけなげさに免じてな――護ってやるわ、その時が来たらの」
あの愚かな子供を。
うぬの代わりに、な。
「・・・うん、よろしく」
“英才教育”のくだりを読むたびに、どんだけだよ、忍野・・・ッ! と、身悶えします。
忍と忍野には、こっそり色々会話していて欲しい。
忍野さんはまあ、勿論、無意識なわけじゃないんだけど、忍ちゃんだけは阿良々木くんに洩らすまいと踏んでしゃべくっていたりする、ズルイ所があったりして。
タイトルは、「君が為」様、『年下に恋する5つのお題』より。
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パラレル、遊郭、エピさん横恋慕という三重苦
「お前、その花似合ってねえぞ」
そう言うと、それまでずっと静かだった瞳が、僅かに揺らいだ。
黒い髪、黒い瞳、必要最低限にしか着飾らない衣装、何よりその物憂げな表情には、南国のものだという派手で下品な赤は、どうしたって似合わない。
もっと落ち着いた大人しい花のほうが似合うのに。
そう言われねえか?
「・・・・言われる、けど」
好きだから、仕方ないな。
ぼそりと呟いて、そっと触れる。
自嘲するように微かに微笑んだ顔がそれはもう綺麗だったので、別にどうでもよくなって、強く抱き寄せた。
はいきました遊郭ネター。
一度は通る道だよね! 通る義務は別に無いけどね!
陰の売れっ子・暦。基本素直な良い子で聞き分けも良いです。
常連・エピ。結構いい奴です。
その後、由来を知ったエピはキレて花を握り潰したりすると。
暦は怒らないけど、何度文句言われてもつけるのをやめないと。
「お前、その花似合ってねえぞ」
そう言うと、それまでずっと静かだった瞳が、僅かに揺らいだ。
黒い髪、黒い瞳、必要最低限にしか着飾らない衣装、何よりその物憂げな表情には、南国のものだという派手で下品な赤は、どうしたって似合わない。
もっと落ち着いた大人しい花のほうが似合うのに。
そう言われねえか?
「・・・・言われる、けど」
好きだから、仕方ないな。
ぼそりと呟いて、そっと触れる。
自嘲するように微かに微笑んだ顔がそれはもう綺麗だったので、別にどうでもよくなって、強く抱き寄せた。
はいきました遊郭ネター。
一度は通る道だよね! 通る義務は別に無いけどね!
陰の売れっ子・暦。基本素直な良い子で聞き分けも良いです。
常連・エピ。結構いい奴です。
その後、由来を知ったエピはキレて花を握り潰したりすると。
暦は怒らないけど、何度文句言われてもつけるのをやめないと。
思いついた所を埋めます。
01. 静かに首を振って
「忍野は、誰かを好きになったり、しないのか?」
きっと精一杯さり気なさを装って、それでもほんの少し掠れるその声が、愛しかった。
「するよ?」
ああほら、駆け引きなんてした事もないくせに無理するから。
予想外の答えが返って来たらもう処理できなくなって、目が泳いでる。
「え・・・あー、たとえば、どんな、人を?」
たとえば、小さくて、可愛くて、お人よしで、頑固で、人のボケには突っ込まずにいられなくて、頭の回転は速いくせに恐ろしく鈍感で、友人や家族思いの優しい子とか、
そうでなければ――
「自立した大人の女性」
「――お前それ、希望する資格あるのか?」
「いやいや、僕がこんな根無し草だからこそ、そういうしっかり者の女の人がいいんだよ。それにそういう人って、こういう定職に就いてないだらしのない男に、意外と弱いものでね」
「自分をだめんず呼ばわりしてまで説明してくれなくていいよ! 悲しくなるだろ!」
ショックを押し隠して冗談に流すけなげな姿なんて見せられてしまうと、こっちも流されそうになるよな。
*** ** * *
02. てのひらで押さえた唇
「阿良々木くん、ひとつ教えておいてあげるよ」
がくんと力の抜けていく体を受け止めながら囁いた。
荒い息を整えようとしながら見上げる顔が、凄く可愛い。
「こういうときに好きだなんて言うと、調子のいい男だと思われちゃうよ」
気をつけたほうがいいぜー、と言いながら、その瞳がざっくり傷つくのを確かめていた。
*** ** * *
03. 頼むから黙って
「誰にでも優しいことなんて、無い。僕は、忍野には優しくしないんだから。困るって分かってて、我侭を言う。お前の都合なんて知るものか。ただ、傍に居たいだけだ」
僕が核心に迫る程に、忍野はきっと酷いことを言って、自分から遠ざけようとするのだろうけど、そしてそれも全部、彼の優しさだと分かるけれど。
分かるからこそ、引き下がれない。
何にせよ僕には、手札を晒す他に戦う方法なんて、無いのだ。
*** ** * *
04. 一瞥もくれず
05. 瞳を閉じたまま
06. 片手で軽く制して
07. 別れ際だけは優しい
08. 聞こえない振りして
「なあ忍野くん、自分、あの子に何したん? えっらい切ない顔して忍野くんのこと回想しとったけど」
忍野くんは暫く考えた後で、
「・・・・心と体を弄んで、ぽいっと捨てました」
「鬼畜やねー」
「鬼畜でしょー」
相変わらずのニヤニヤ笑いが、今日ばかりは可愛えかもーなんて思ったりして。
「で、どっちが先に本気になってもうたの?」
「・・・・」
*** ** * *
09. 話は終わりと言いたげに
10. 一人その場に残されて
拒まれるというか、頑張って拒んでいる。あっれー?
タイトルは、「恋したくなるお題」様より、『拒まれる恋のお題』。
本当は誰のことも、待っていた事など無い。
僕の所を意識的に訪ねて来る者なんて、九割九分九厘、厄介事を抱えた招かれざる客と相場が決まっているので――まあ、その中に未知なる怪異と遭遇した人間が混じっている可能性もある以上、裏を返せば九割九分九厘が歓迎すべき客と言うべきなのかもしれないけれど――僕個人の好みを述べさせてもらうならば、あまり人と関わりを持ちたくないなあという気持ちがあるわけで、とにかく、僕には待つべき人間なんていないという事が言いたいのだ。
なら何で、誰かを招き入れる度に待ってましたって挨拶で出迎えるんだって質問が投げられそうだけど、あれはどちらかといえば真逆の効果を狙ってやっている事なのだ。然して親しくも無い人間に、いきなり馴れ馴れしく自分のプライベートゾーンに間合いを詰められて、不快に思わない人間は中々居ないだろう。警戒を促すというか、ああ、こいつに深く関わりたくないなあと思って欲しいというか、そういう事だ。
我ながら、捻くれているとは思う。
拠点に選んだ場所は元々静かで、人の意識から取り残されたような所があって、結界を張った後はもう完璧だった。
人の住処の近くにあって仕事には好都合だし、それでいて誰の目にも止まらない、放っておかれる土地。
僕はこの廃墟を、いたく気に入っている。
とはいえ、何事にも完璧を期すというのは難しいもので、この場所にも、イレギュラーなキャラクターというのは存在する。
一人(というか一体・・・・と言ったら失礼か、いくらなんでも)は今日も階段の踊り場で膝を抱えている小さい女の子・・・・の形をした、怪異。
もう一人は、
「――あ」
噂をすれば影がさす。
学習塾跡というこの廃墟に巡らせてある、不可視の鳴子というかセンサーというか、例の大怪盗の孫の出て来るアニメ風に言うならば、赤外線のアレみたいなものが、反応したのが分かった。
侵入者有り、だ。
ここにあっさり入って来られる人間は、今のところただ一人、少し前に出会った、とある高校生しかいない。
彼は、前述の女の子に深く関わっている事情によって、望むと望まざるに関わらず、定期的にここを訪れる必要があるのだ。
月イチ位で。
「・・・・昨日の今日って」
どうも彼はちょっと常識とずれた心の距離感をお持ちのようで、本当なら可能な限り避けたいであろうこの場所に、頻繁に訪問してくるのだ。
彼女の事が気に掛かるのは理解できる。一言では説明しきれない複雑な経緯を辿ったけれど、今や彼らが肉体的にも精神的にも大いに依存し合う関係であることは間違い無いし、彼女の存在がここに縛られている以上(ちなみに縛っているのは僕)、様子を確かめようと思ったらここに来る他は無いのだから。
理解出来ないのは、彼が、彼女に会いに来るたびに、僕まで訪問していくという事だ。
そんな必要無いんだよ、と言ってあげたのだけど、いや、でも、来たのに挨拶しないのも何だし・・・・とか、ごにょごにょ言っていた。
しかも、律儀なことに大抵はミスタードーナツのお土産つきで。
育ちが良いんだろうか。僕はそういう儀礼的な事は、かえって面倒なんだけどなあ。
思いを巡らせている内に、僕のいる部屋に向かって、軽快なリズムが近付いてくる。
踊り場で一旦止まって――また近付く。
じとーっと彼を睨むしかしない(今のところは、だけど)彼女と、気まずい顔で見詰め合ってたんだろうなと思うと、何だか少し笑ってしまった。
やれやれ、面倒だけど無碍にするのも何だから、適当に相手をしてあげるとしようかな。
もう自分の耳でも聞こえる足音が廊下を渡って、引き戸が開けられる。
「やあ、遅かったね阿良々木くん、待ちくたびれ――」
「おう忍野! 今日は用事があるからもう帰るけどドーナツ買ってきたからはいこれ。忍がまた踊り場で拗ねてたけど今度は仲良く分けてくれ、じゃあ!」
ピシャッ、と。
来た時と同じ勢いで引き戸が閉められて、僕は固まった姿勢のままでそれを見送った。
・・・・いや、別に待ってなかったから、構わないけど。
ドーナツだけゲット出来たし、高校生の雑談に付き合うのも面倒だし。
いや、あの子も中々礼儀を弁えてきたじゃないか、感心感心。
「・・・・忍ちゃんの好きなのは、ゴールデンチョコレートだったよね」
別にわざとそれから食べてやろうとか、盛大に拗ねさせておくから次来た時に困ればいいじゃないかとか、思ってないし。
無言でドーナツのケースを開けて、もそもそと一つ口に運んだ。
知らないけど、何か黄色いトッピングのチョコのやつ。
口中に広がる甘いチョコの味に、溜息が出た。
「何だかなあ・・・・」
戸を開けた時の少し上気した顔や、ずかずかと僕の所まで歩いて来てすぐに身を翻した時の髪の流れが蘇るのはどうしたわけなんだろう。
重ねて、断じて、待ってなどいなかったし、がっかりなどしていないけど、どうもあの子にはペースを乱される気がして、困る。
僕はあの子が隣に座ったら、何か話すことでもあったのだろうか。
はーあ、嫌だ嫌だともう一度溜息をついて、ゴールデンチョコレート(あ、言っちゃった)を食べきってやった。
そうだ今度来た時こそはあまり馴れ馴れしくしないように言ってやろう意趣返しとかじゃなくて親切な忠告として言ってやろうと決意を固めていると、
「・・・・あれ?」
離れかけていた気配が、Uターンして、さっきの倍くらいの勢いでまた近付いてきた。
だだだだだ、とまた足音が聞こえ(廊下を走ると委員長ちゃんに叱られるよ)、もう一度、今度はえらい勢いで戸が引き開けられる。
果たしてそこには、何故かきっ、と口を引き結んだ少年が立っていて――。
「・・・・どしたの、阿良々木くん」
「やっぱり用事はもう少し後でも構わないから、僕もドーナツを貰うぞ忍野!」
仁王立ちで、胸を張って、どっかのSF小説のお姫様みたいに、戦勝宣言じみた調子で、言い放った。
「・・・・」
「・・・・」
顔が赤いし。
ああ、本当にこの子はもう・・・・。
内心、頭を抱えた。ちょっと上気、くらいにとどめておいてくれたら、僕だって心の中でフォローくらいはしてあげられたのになあ・・・・。
「用事はいいのかい?」
「っ、いいって言ったろ!」
阿良々木くんは大股で近づいて来ると、僕の隣の机にどかっと腰を下ろして、目を合わせまいとするかのようにドーナツの箱を覗き込む。
「やっぱり、ドーナツが食べたいと」
「そ、そうだよ、悪いかよ」
あー、お前、ゴールデンチョコレート食べちゃったのかー、なんて言いながら。
・・・・仏頂面のキャラ作りとかしてなくて、本当に良かったなあ。
にやにやしながら思う。
(まあ、いいか)
認めよう、僕はこの子が気に入ってしまったんだ。
どうしようもない子供だけれど、多分、だからこそ。
この街にいる間くらいは、仲良くしてもいいのだろうか。
友達居ないなんて言うけれど、こんなに人懐こい子の周りに、人が集まらないわけもない。何かのきっかけさえあればすぐに、彼の周囲は賑やかになるだろう。
だからそれまでくらいは。
彼が、自分を取り巻く世界の面白さに気付いて、僕を後回しにし始めるまでは、構ってもらうとしようかな。
「素直じゃないねえ、阿良々木くんは」
「むぐっ・・・・な、何のことだ忍野!」
*
それが、咽る阿良々木くんに呑気に笑っていた自分を僕が呪いたくなるまで、あと半月――くらいの日の出来事だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・あーあ。
まだ付き合ってないんだぜ、これ・・・・みたいな。
タイトルは、「君が為」様、『年下に恋する5つのお題』より。
僕の所を意識的に訪ねて来る者なんて、九割九分九厘、厄介事を抱えた招かれざる客と相場が決まっているので――まあ、その中に未知なる怪異と遭遇した人間が混じっている可能性もある以上、裏を返せば九割九分九厘が歓迎すべき客と言うべきなのかもしれないけれど――僕個人の好みを述べさせてもらうならば、あまり人と関わりを持ちたくないなあという気持ちがあるわけで、とにかく、僕には待つべき人間なんていないという事が言いたいのだ。
なら何で、誰かを招き入れる度に待ってましたって挨拶で出迎えるんだって質問が投げられそうだけど、あれはどちらかといえば真逆の効果を狙ってやっている事なのだ。然して親しくも無い人間に、いきなり馴れ馴れしく自分のプライベートゾーンに間合いを詰められて、不快に思わない人間は中々居ないだろう。警戒を促すというか、ああ、こいつに深く関わりたくないなあと思って欲しいというか、そういう事だ。
我ながら、捻くれているとは思う。
拠点に選んだ場所は元々静かで、人の意識から取り残されたような所があって、結界を張った後はもう完璧だった。
人の住処の近くにあって仕事には好都合だし、それでいて誰の目にも止まらない、放っておかれる土地。
僕はこの廃墟を、いたく気に入っている。
とはいえ、何事にも完璧を期すというのは難しいもので、この場所にも、イレギュラーなキャラクターというのは存在する。
一人(というか一体・・・・と言ったら失礼か、いくらなんでも)は今日も階段の踊り場で膝を抱えている小さい女の子・・・・の形をした、怪異。
もう一人は、
「――あ」
噂をすれば影がさす。
学習塾跡というこの廃墟に巡らせてある、不可視の鳴子というかセンサーというか、例の大怪盗の孫の出て来るアニメ風に言うならば、赤外線のアレみたいなものが、反応したのが分かった。
侵入者有り、だ。
ここにあっさり入って来られる人間は、今のところただ一人、少し前に出会った、とある高校生しかいない。
彼は、前述の女の子に深く関わっている事情によって、望むと望まざるに関わらず、定期的にここを訪れる必要があるのだ。
月イチ位で。
「・・・・昨日の今日って」
どうも彼はちょっと常識とずれた心の距離感をお持ちのようで、本当なら可能な限り避けたいであろうこの場所に、頻繁に訪問してくるのだ。
彼女の事が気に掛かるのは理解できる。一言では説明しきれない複雑な経緯を辿ったけれど、今や彼らが肉体的にも精神的にも大いに依存し合う関係であることは間違い無いし、彼女の存在がここに縛られている以上(ちなみに縛っているのは僕)、様子を確かめようと思ったらここに来る他は無いのだから。
理解出来ないのは、彼が、彼女に会いに来るたびに、僕まで訪問していくという事だ。
そんな必要無いんだよ、と言ってあげたのだけど、いや、でも、来たのに挨拶しないのも何だし・・・・とか、ごにょごにょ言っていた。
しかも、律儀なことに大抵はミスタードーナツのお土産つきで。
育ちが良いんだろうか。僕はそういう儀礼的な事は、かえって面倒なんだけどなあ。
思いを巡らせている内に、僕のいる部屋に向かって、軽快なリズムが近付いてくる。
踊り場で一旦止まって――また近付く。
じとーっと彼を睨むしかしない(今のところは、だけど)彼女と、気まずい顔で見詰め合ってたんだろうなと思うと、何だか少し笑ってしまった。
やれやれ、面倒だけど無碍にするのも何だから、適当に相手をしてあげるとしようかな。
もう自分の耳でも聞こえる足音が廊下を渡って、引き戸が開けられる。
「やあ、遅かったね阿良々木くん、待ちくたびれ――」
「おう忍野! 今日は用事があるからもう帰るけどドーナツ買ってきたからはいこれ。忍がまた踊り場で拗ねてたけど今度は仲良く分けてくれ、じゃあ!」
ピシャッ、と。
来た時と同じ勢いで引き戸が閉められて、僕は固まった姿勢のままでそれを見送った。
・・・・いや、別に待ってなかったから、構わないけど。
ドーナツだけゲット出来たし、高校生の雑談に付き合うのも面倒だし。
いや、あの子も中々礼儀を弁えてきたじゃないか、感心感心。
「・・・・忍ちゃんの好きなのは、ゴールデンチョコレートだったよね」
別にわざとそれから食べてやろうとか、盛大に拗ねさせておくから次来た時に困ればいいじゃないかとか、思ってないし。
無言でドーナツのケースを開けて、もそもそと一つ口に運んだ。
知らないけど、何か黄色いトッピングのチョコのやつ。
口中に広がる甘いチョコの味に、溜息が出た。
「何だかなあ・・・・」
戸を開けた時の少し上気した顔や、ずかずかと僕の所まで歩いて来てすぐに身を翻した時の髪の流れが蘇るのはどうしたわけなんだろう。
重ねて、断じて、待ってなどいなかったし、がっかりなどしていないけど、どうもあの子にはペースを乱される気がして、困る。
僕はあの子が隣に座ったら、何か話すことでもあったのだろうか。
はーあ、嫌だ嫌だともう一度溜息をついて、ゴールデンチョコレート(あ、言っちゃった)を食べきってやった。
そうだ今度来た時こそはあまり馴れ馴れしくしないように言ってやろう意趣返しとかじゃなくて親切な忠告として言ってやろうと決意を固めていると、
「・・・・あれ?」
離れかけていた気配が、Uターンして、さっきの倍くらいの勢いでまた近付いてきた。
だだだだだ、とまた足音が聞こえ(廊下を走ると委員長ちゃんに叱られるよ)、もう一度、今度はえらい勢いで戸が引き開けられる。
果たしてそこには、何故かきっ、と口を引き結んだ少年が立っていて――。
「・・・・どしたの、阿良々木くん」
「やっぱり用事はもう少し後でも構わないから、僕もドーナツを貰うぞ忍野!」
仁王立ちで、胸を張って、どっかのSF小説のお姫様みたいに、戦勝宣言じみた調子で、言い放った。
「・・・・」
「・・・・」
顔が赤いし。
ああ、本当にこの子はもう・・・・。
内心、頭を抱えた。ちょっと上気、くらいにとどめておいてくれたら、僕だって心の中でフォローくらいはしてあげられたのになあ・・・・。
「用事はいいのかい?」
「っ、いいって言ったろ!」
阿良々木くんは大股で近づいて来ると、僕の隣の机にどかっと腰を下ろして、目を合わせまいとするかのようにドーナツの箱を覗き込む。
「やっぱり、ドーナツが食べたいと」
「そ、そうだよ、悪いかよ」
あー、お前、ゴールデンチョコレート食べちゃったのかー、なんて言いながら。
・・・・仏頂面のキャラ作りとかしてなくて、本当に良かったなあ。
にやにやしながら思う。
(まあ、いいか)
認めよう、僕はこの子が気に入ってしまったんだ。
どうしようもない子供だけれど、多分、だからこそ。
この街にいる間くらいは、仲良くしてもいいのだろうか。
友達居ないなんて言うけれど、こんなに人懐こい子の周りに、人が集まらないわけもない。何かのきっかけさえあればすぐに、彼の周囲は賑やかになるだろう。
だからそれまでくらいは。
彼が、自分を取り巻く世界の面白さに気付いて、僕を後回しにし始めるまでは、構ってもらうとしようかな。
「素直じゃないねえ、阿良々木くんは」
「むぐっ・・・・な、何のことだ忍野!」
*
それが、咽る阿良々木くんに呑気に笑っていた自分を僕が呪いたくなるまで、あと半月――くらいの日の出来事だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・あーあ。
まだ付き合ってないんだぜ、これ・・・・みたいな。
タイトルは、「君が為」様、『年下に恋する5つのお題』より。