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彼女と彼を。
覚書用の二次創作短文つきです。
覚書用の二次創作短文つきです。
「――」
ごうごうと風の鳴る、整然として冷たいその場所に、彼女は彼を見つけた。
全身を血に塗れさせ――そのことが、彼がそこに倒れてから、それほど時が経っていないことを告げていた――静かに目を閉じ、ぴくりとも動かず。
「…おまえさま」
自分の眼に映るものがまるで信じられないという顔で、ふらふらと歩み寄る。
膝をつく。
「お前様」
まるで血の気の失せた白い肌に、小さな手がそっと触れる――まだ、暖かかった。
「お前様。お前様よ」
そのことに勇気付けられて、彼女はその顔を覗き込んで、何度も呼びかけてみた。
「遅くなってすまんかったのう、お前様がなかなか儂を見つけてくれんから…呼んでくれんから……ああいや、責める気は無いぞ。怒っておらん。じゃから、」
震える指先で、何度もその顔を拭うようにして、髪をかきあげてやり、
「じゃから、目を開けておくれ。後生じゃから、もう一度儂を見ておくれ。うぬが居なくなれば儂は、」
少年の頬に落ちる雫も懸命に払ってやり、出来るだけ優しい声で呼びかけてみた。
生きられぬ。
――違う。
また恐るべき吸血鬼に戻る。
――違う。
また、儂は――
「――儂は、一人ぼっちになってしまうぞ。のう、お前様、すまぬ。すまない。ごめん、ごめんなさい、つまらない意地を張って、子供みたいに拗ねて、ごめんなさい。謝るから、起きておくれ」
もはや届かないと知りながら、ずっとその胸に渦巻いていた言葉達が堰を切った。
「儂は、お前様の居ない世界など要らん。お前様が目を覚ましてくれんのなら、こんな世界など一週間で滅ぼしてくれるぞ。困るじゃろう?うぬには、守りたいものがたくさんあるのじゃろう?それを儂が、わし、が」
何故自分は愚かにも、この少年を試すような真似をしたのか。
彼女はただ、彼に、振り向いて、あの春の頃のように眩しく見詰めて欲しかったのだ。
細い首を差し出したあの夜のように、自分だけを思い、気にして欲しかったのだ。
それだけだったのに。何故、この愛しい子は、目を開けてくれないのか。
何故、応えてはくれないのか。
何故、……息を、してくれないのか。
――お前様!!
幼い腕で少年の頭を抱きしめて、とうとう彼女は叫んだ。
叫んで、そして、ついさっきまでの温もりが今や消えうせ、己の肌に分けられたものしか残らないことを知る。
「……ああ」
それを名残惜しく味わおうにも、強すぎる風が容赦なく奪い去る。
そうして、自分の指先から完全に熱が失われたのを知った瞬間、
「あ――ああ、あ、あ…、は…は「はは「ははははは「はははははははは!はははははははははは――!」
彼女は呻き、喘ぎそして、高らかに哄笑した。
天を仰いで喉も裂けよと、かつてのように哄笑し、
「――――」
傍らにありながら完全にその存在を無視していた一匹の猫に、振り返った。
「――――」
猫も吸血鬼も、今や無言だった。
言葉を交わす必要など無い。これからの未来は、今、絶望的に決定的に、その道筋を整えられたのだから。
無言で伸ばした手――もう幼くはない、美しくしなやかな大人の腕の先にある長い指が、猫の首を鷲掴みにし――
終わりの始まりが、無音のまま幕を開けた。
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「――」
ごうごうと風の鳴る、整然として冷たいその場所に、彼女は彼を見つけた。
全身を血に塗れさせ――そのことが、彼がそこに倒れてから、それほど時が経っていないことを告げていた――静かに目を閉じ、ぴくりとも動かず。
「…おまえさま」
自分の眼に映るものがまるで信じられないという顔で、ふらふらと歩み寄る。
膝をつく。
「お前様」
まるで血の気の失せた白い肌に、小さな手がそっと触れる――まだ、暖かかった。
「お前様。お前様よ」
そのことに勇気付けられて、彼女はその顔を覗き込んで、何度も呼びかけてみた。
「遅くなってすまんかったのう、お前様がなかなか儂を見つけてくれんから…呼んでくれんから……ああいや、責める気は無いぞ。怒っておらん。じゃから、」
震える指先で、何度もその顔を拭うようにして、髪をかきあげてやり、
「じゃから、目を開けておくれ。後生じゃから、もう一度儂を見ておくれ。うぬが居なくなれば儂は、」
少年の頬に落ちる雫も懸命に払ってやり、出来るだけ優しい声で呼びかけてみた。
生きられぬ。
――違う。
また恐るべき吸血鬼に戻る。
――違う。
また、儂は――
「――儂は、一人ぼっちになってしまうぞ。のう、お前様、すまぬ。すまない。ごめん、ごめんなさい、つまらない意地を張って、子供みたいに拗ねて、ごめんなさい。謝るから、起きておくれ」
もはや届かないと知りながら、ずっとその胸に渦巻いていた言葉達が堰を切った。
「儂は、お前様の居ない世界など要らん。お前様が目を覚ましてくれんのなら、こんな世界など一週間で滅ぼしてくれるぞ。困るじゃろう?うぬには、守りたいものがたくさんあるのじゃろう?それを儂が、わし、が」
何故自分は愚かにも、この少年を試すような真似をしたのか。
彼女はただ、彼に、振り向いて、あの春の頃のように眩しく見詰めて欲しかったのだ。
細い首を差し出したあの夜のように、自分だけを思い、気にして欲しかったのだ。
それだけだったのに。何故、この愛しい子は、目を開けてくれないのか。
何故、応えてはくれないのか。
何故、……息を、してくれないのか。
――お前様!!
幼い腕で少年の頭を抱きしめて、とうとう彼女は叫んだ。
叫んで、そして、ついさっきまでの温もりが今や消えうせ、己の肌に分けられたものしか残らないことを知る。
「……ああ」
それを名残惜しく味わおうにも、強すぎる風が容赦なく奪い去る。
そうして、自分の指先から完全に熱が失われたのを知った瞬間、
「あ――ああ、あ、あ…、は…は「はは「ははははは「はははははははは!はははははははははは――!」
彼女は呻き、喘ぎそして、高らかに哄笑した。
天を仰いで喉も裂けよと、かつてのように哄笑し、
「――――」
傍らにありながら完全にその存在を無視していた一匹の猫に、振り返った。
「――――」
猫も吸血鬼も、今や無言だった。
言葉を交わす必要など無い。これからの未来は、今、絶望的に決定的に、その道筋を整えられたのだから。
無言で伸ばした手――もう幼くはない、美しくしなやかな大人の腕の先にある長い指が、猫の首を鷲掴みにし――
終わりの始まりが、無音のまま幕を開けた。
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