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それは本当に、とても勝率の低い賭けだったのだ。
*
季節は春。
日差しの麗らかな昼下がり、満開の桜が散る先を目で追っていたら、周りの風景に見覚えがあることに気が付いた。
いつの間にか、あの街の近くを通っていたらしい。
数年前、伝説の吸血鬼が舞い降りた街、何の変哲も無い貌をしながら幾つもの怪異を抱え込んでいた街。
そして、あの子が住んでいる街。
次の目的地へと向かう道を少し逸れれば、あの街へはすぐに到達出来る。そういう道に、僕は立っていた。
と、目の前にひらひらと舞い落ちるものがあった。桜の花弁だ。
思うよりもぼんやりしていたらしい。
――ああ、この辺は今頃が盛りだからな。
ほら、あそこの道沿いに植えてあるから、風が強いとここまで――
綺麗な黒髪に花弁を乗っけて、穏やかな目をして教えてくれた。
その声を。
声を、思い出したので、少し馬鹿をしてみようと思ったのだ。
人気の無い道をぶらぶらと歩けば、程無く覚えのある街並みに入っていた。
「この道はいつか来た道――ってね」
歌の歌詞のような風情のある状況じゃなかったけれど。少し笑いそうになる。
始まりは吸血鬼。
金色の、血も凍るほど美しい彼女。
傲慢で無邪気な残酷と、悲しみと誠実と優しさ。
それから、3人の手練のハンター。
一翼を欠いた二人はそれでも変わらず仕事に勤しんでいる事だろう。
そして、
「・・・何だろう。馬鹿な子供、かなあ」
本人が聞いたら間違いなく髪を逆立てて怒りそうな評価だが、これが正直な所。
本当に、救いようも無く馬鹿で、お人好しで、どこまでも優しい、いい子だった。
その愚直さや鈍感さに、時に苛立ち、時に惹かれ――惹かれ、合いながら、数ヶ月を過ごした。
いかないで
あの子は一度も口に出す事は無かったが、何時しかその瞳が雄弁に語るようになっていた。
不意に裾を引かれた日。振り向いた先の泣き出しそうな顔。
胸に抱き着いて離れようとしなかった夜。その震える指。
そんな一つ一つに胸を刺されながら、僕は何時しか離れる日の事ばかりを考えるようになっていた。
夏の近い、風の強いあの日、教室から走り出して行く彼の背中を見送った僕は、最後の後始末を終え、寝床にしていた教室のドアを閉め、住み慣れた廃墟の階段を――上っていた。
特に理由は無い。ただ何となく、そのままあっさりとは去り難かった、それだけだ。
勿論、そのただ何となくが僕にしては相当の問題行動だって事は分かっていたけど、気付かない振りで。
障り猫がほどいたロープが真横に流れ、ごうごうと風の音だけが耳を打った。
屋上から街並みを見渡していたら、あろうことかこのタイミングで一台の自転車が走ってくるのが見えて、笑ってしまった。
ああ、僕らには本当に、何がしかの縁があるのかもしれないね。ここでもう一度君の姿を見せてくるなんて、目に見えない誰かの粋な計らいのようじゃないか。
それを、今、切ってあげよう。
『阿良々木くん!』
阿良々木、暦くん。
白状するとね。
僕が何より好きだったのは、誰かの為に走る君の、その後姿だったんだよ。
そうして、僕は街を去った。最後に一番好きな光景を焼き付けて。
彼は怒るだろうか。僕を恨むだろうか。そして、忘れてくれるだろうか。
そんな女々しい事を暫く考えていたのを覚えている。自分の未練がましさに苦笑した事も。
彼のあの性格だ、10代の終りの日々を誰かの為に走り回って過ごすうちに、いっときの間違いみたいな感情のやり取りなど、多分忘れてくれる、忘れてくれたと思う。いや、若いってのはいい事だ。
――なら、この思いは。
何時まで経っても消え去ってくれない僕の恋情は、何処へ捨てたらいいだろう。
「・・・うん、そうしよう」
このまま歩けば、あの廃墟に辿り着くから、そうしよう。
これは賭けだ。とても安全な倍率の賭け。安全に負けて、安全に失恋するとしよう。
ひとつ。廃墟に阿良々木くんが居て、
ふたつ。僕を待っていて、
みっつ。僕を――まだ好きで。
三つ揃ったら、僕の勝ちだ。
あの子がそこまでの馬鹿だったなら、お伽噺みたいなその運命に、今度こそ乗ってやろう。
落書き帳の再会ネタの直前ということで。
忍野さんは本当に冗談みたいなつもりで廃墟に立ち寄ったのでしたーと。
モノ見りゃ踏ん切りも付くだろうと。
まだまだ阿良々木くんのしつこさもとい一途さを、甘く見ていたんですね。
Carrie Underwood/Ever Ever After
Storybook endings, fairy tales coming true
Deep down inside we want to believe they still do
本気でこの歌BGMにしてたらしいぜ・・・この管理人!
魔法にかけられてるのはお前の脳だって話ですよ!(恥ずかしいという感情はあるんですよ!?)
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