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ついったログまとめです。TOSHIさんにお付き合い頂きました!
今回は趣向を変えまして、ログそのままではなく、それぞれちょっとずつ推敲して、摺り合わせてみました。
どちらがどちらの、文字色変えも無しで参りますので、共作という事でご覧頂ければと思います。
告白の、ワンシーンです。
「・・・もうお前なんかにはぐらかされないからな」
ありったけの勇気を振り絞って発した声は、微かに震えていた。
仄かに見える彼の顔。暗がりの中で常と同じように見える彼の顔が、僕の言葉に決定的な色をすとんと落とす様を僕は見た。
決定的な―――それまで確かに其処に存在していた、友愛の色を。
「・・・勇敢だなあ」
す、と忍野の目が細められた。
「・・・」
こんな目で見られた事が、今までで一度でもあっただろうか。
こんな、冷たい――いや、冷たいとすら感じない、他人を見るような、酷薄な眼差し。
「僕が男、しかも君みたいな、さしたる取り得も無いガキに、本気で構うと思ったのかい?」
――足が、もう少しで震えそうだ。
怖い。忍野という男が、ひとたびその意思を以って人を威圧しようとすれば、これ程までの空気を纏えるという事を、僕は初めて知った。
しかし、それよりも何よりも恐ろしいのは、
今退き下がれば、忍野はもう二度と僕を見てくれなくなるという事が、はっきりと分かってしまう事、だった。
「だから言ったろ。―――はぐらかされてなんか、やらない」
「別にはぐらかしてるわけじゃないよ。本当に、本気で嘘偽り無く忍野メメは阿良々木暦の事なんかなーんにも思っちゃいない。・・・ちょっと自意識過剰なんじゃないのかい、阿良々木くん」
「自意識過剰?」
は、と鼻で笑う。
だが忍野はその挑発にさえぴくりとも反応しない。明らかに常の彼とは異なる瞳を持ってして、彼は僕を淡々と眺めていた。
「自意識過剰大いに結構じゃないか。何がいけない? 言ってみろよ忍野、自意識過剰の何が悪い」
カツカツと、それほど無かったお互いの距離を更に詰める。
忍野は何も言わない。拒絶も感心も彼は口にしない。ならば僕はその距離を詰めるだけだ。
詰めれば詰めるほど互いの距離は明確に失われていく。されどいくら距離を詰めようとも、一向に彼を間近に感じる事は出来なかった。
僕なんかじゃその影を掴むことすら出来ない、ひどく、遠いひと。
―――けれど、
「・・・それに、お前も言っただろう?」
カツン、と音が途切れる。
同時に、僕はぐい、とその胸倉を引き寄せた。
届かないからなんだというのだ。掴むことすら出来ないからなんだというのだ。
そんなこと―――知ったことか。
「僕は勇敢なんだ―――今更、お前の優しさなんかに怯えてやらない」
微かに揺らいだ瞳を睨むように覗き込んで、僕は低く言い放った。
「・・・優しさ?」
「――そうだ。お前は僕に手を出していつか僕を置いて行く事になるのがそしてその時に僕を完膚なきまでに傷つけるのが嫌なんだ。そうやって僕を守ろうとしている。・・・そんな優しさはいらないし、怖くない」
「――傷つくって言葉の意味も、知らないくせに」
「僕はとっくに傷物だよ。それに、僕は・・・お前に傷つけられたいんだ」
「・・・君は本当にドM野郎だね。自分から傷つけられたいとか、頭おかしいんじゃないのかい」
「おかしくない。・・・それにな、忍野」
傷つくという言葉の意味も知らないと、お前が言うのなら。
「教えてくれよ―――お前が、僕に傷を付けてくれ」
お前のものだという、一生消えない傷を。
そっと忍野の手を僕の首元へと持っていって、まるで懺悔するようにそう呟いた。
「・・・本当に、消えないよ?」
いつか思い出す度に、抉られるように痛いんだよ?
「――そうなのかもな。でもそれは忍野、お前も背負ってくれるんだろう?」
頚動脈を撫でられながら、もしかしたら忍野が負う傷は、僕と――僕の前の、誰かの、2人分かもしれないなと、よぎる。
「本当に勇敢だなあ――それに、」
残酷だなあ。
そう言って笑う顔があんまり切なげで、僕は、
「・・・もう一つ。卑怯者」
「わ、るい――」
理由も分からない涙を、止める事が出来なかった。
「それでも僕に傷を付けて欲しいのかい。消えない傷を、消せない痕を」
頚動脈を撫でる手が止まる。
消えないと、消せないと。まるで彼は最期を告げる審判のような重苦しい声で、その言葉を、僕の欲しい言葉を。
忍野の冷たい指先から、彼のたとえようが無いほどの感情がひしひしと伝わって―――それがどうしようもなく、いとおしくて。
「―――つけてくれ」
傷を、お前という傷痕を、
「僕に、刻み込んでくれ―――・・・」
ぎりっ、と首筋に走る痛みにそっと瞳を閉じて、僕は彼の存在を一心に感じた。
「・・・ああ、やっぱりすぐに治っちゃうね・・・まあでも、体の傷なんていつかは治るし」
やがて小さな呟きと共に、忍野の指が離れた。
首筋を辿っていた――という表現は些か生温い。僕の頚動脈の真上に爪を立てて、薄く皮膚を破りながら、端から治ろうとする其処を何度も何度も抉っていた――指が離れ、目蓋を上げるよりも先に、ふわりとした感覚に包まれた。
忍野が、固く張り詰めていた僕の体を、柔らかく抱き寄せたのだ。
「――おし・・・の・・・っ」
背中に、頬に感じる温もりに、緊張の糸がぷつりと切れたようだった。
突き上げてくるような嗚咽に任せて目の前のシャツに縋り付けば、そっと背中を撫でられて、優しい声が降って来る。
「ごめん、沢山意地悪言ったね。怖かったろうに」
「・・・っ、――!」
高い壁のような拒絶のすぐ後に与えられた慰撫の言葉は余りにも温かくて、嬉しくて、悲しくて、甘い。
「君があんまり勇敢で――僕のほうが、怖かったんだよ。もう、しないよ」
低く穏やかなその声に、きっと、優しくされるほうが後から辛いんだろうなと、頭の隅で、思った。
「す、き・・・っ」
彼から与えられる、痛みを伴う優しさ。
心臓をそのまま抉り取られるような痛みだとしても、僕はそれが欲しくて欲しくて仕方なかった。
「好き、だ・・・・・・好きなんだ・・・っ」
零す度にぽろぽろ溢れ出る痛みと涙。
極上の砂糖菓子のように甘い痛みは僕にはひどく甘くて。
甘くて甘くて―――ひどく、死にたくなった。
「おし、の・・・ぉ!」
子供のように恥ずかしげも無く嗚咽を漏らして縋りつく僕を、忍野は嬉しそうな、けれど何処か痛みに耐えるような常の彼らしくない笑みを浮かべて
「・・・僕も好きだよ。ずっと好きだった」
ずっと、欲しかった。
「――ごめんね」
もう一度だけ謝って、忍野は、ぎゅうっと僕の体を抱き締めた。
謝るなよ忍野。お前が謝るたびに、この腕の熱が冷める時を想って死にそうになるんだ。
「離すな。この腕を、この手を、」
この熱は冷めない。この夢は覚めない。
たとえそれが―――傷痕だとしても。
「僕を離すな―――・・・」
終末の夢を謡いながらお前の空言を愛するから。
だからせめて今だけは、僕をお前の空言に溺れさせてくれ。
「うん――離さない」
そう言った忍野の腕が、声が、一瞬震えたように感じたのは、気のせいだったのかもしれない。
『あの人に嫌われる? 無関心より まし ね』
タイトルは勝手に付けさせて頂きました。チャラです。
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