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「忍野ー、差し入れ持ってきてやったぞー」
「おお、悪いね阿良々木くん、100円セールかい」
「違うよ、今日はこれ」
そう言って彼が掲げて見せたのは、どこかのデパートの紙袋と、魔法瓶だった。
コーヒーでも持って来てくれたのかな、僕はブラックがいいけど、忍ちゃんが飲めないかなあ。
それにしても本当にこの子は気遣いくんというか、育ちがいいというか。
・・・あまり打ち解けられるのも、困るんだけどなあ。
そんな風に思っている僕の横に腰掛けて、阿良々木くんが取り出したのは、・・・タッパー?
「お前も忍も、甘いものばっかじゃ体壊すと思ってな」
「・・・はあ」
ぱかっと開いたそこには、青々とした小松菜か何かのおひたしと、ふわりと巻かれた玉子焼きが、きちんと並んで鎮座していた。――いや、何か、端っこのほうに、少し歪んで色の悪いのも一つ。焦げてるのかな。
「ちゃんと野菜摂らないと。あと、いつもパンじゃ駄目だぞ」
久しぶりの光景に思わず見入ってしまっている僕を尻目に、阿良々木くんがさらに紙袋から取り出したのは、彼の手の平に少し余るくらいの、アルミホイルの包みだった。
「それ、おにぎり?」
「ああ。開けてみないと分からないけど、海苔が巻いてあるのが梅干かおかか、ちょっとゴマがかかってるのが鮭な」
「・・・はあ」
「あとこっちが」
魔法瓶を手に取る阿良々木くん。この流れだと、お茶かな。
「味噌汁」
「うわ」
思わず声が出た。
「うん? ・・・嫌いか?」
「あーいやいや、好きだけど・・・随分、手が込んでるなあって思ってね」
「ああ、マ・・・母に頼んで、作ってもらった。僕が食べるからって言ってさ」
「へえー・・・」
分かってるのかなあ、この子は。
このシチュエーション、まるっきり、『男は胃袋を掴め』みたいな様相を呈している気がするんだけれど。餌付けとも言う。
これは、効く。僕みたいな放浪者には、特に。肉じゃがより味噌汁って、どっかで聞いた気もするし、いや完璧だよ阿良々木くん。驚くのは、それをやってのける君が、男子高校生だってことくらいさ。
いや、勿論他意は無いんだろうけれど。
阿良々木くんが僕の胃袋掴んでもしょうがないし・・・狙われても困るし。
・・・とは、言うものの。
「阿良々木くん、せっかくだし、今頂いてもいいかい」
「えっ?」
えっ、て。
僕の問い掛けに何故か過剰に反応する阿良々木くんに一つの確信を得た僕は、じゃあここは遠慮したほうがいいなと思いつつ――体の脇に蓋を開けたタッパーを置いて、アルミホイルの包みを一つ手に取った。
「あー・・・いいぞ、もちろん。うん、まあ、そうだな、せっかくだから、な、うん」
阿良々木くんは何やらブツブツ言いながら、微かに頬を赤くしている。
「じゃ、いただきます」
手を合わせていると、横から箸を渡された。ちゃんとした塗り箸だ。
包みを剥いてみると、海苔のいい香りが漂った。一口齧ると、あ、梅干だ。御飯がふっくらしていて、美味しい。
「・・・久しぶりだなあ、こんな食事」
それは素直な感想だった。おひたしは薄く出汁が効いていて、これまた美味しい。
「だろうな。コンビニが多いんだろ、どうせ」
「うん、そうだね。というか、ここ数年の僕の体は、ほぼコンビニ弁当で出来てるね」
「お前それ体壊すからな、真剣に」
しみじみと家庭の味を噛み締めていると、阿良々木くんが隣で文句を言いながら、魔法瓶の蓋を開けた。
とぽぽぽと音を立てて湯気の立つ味噌汁が注がれる。
「ん。熱いから気をつけろよ」
うわあ。何で両手で渡すかなあ。
この子は何と言うか・・・男の(僕のとは言わない)ツボを突くのが、妙に上手いんだよな・・・。
遠い目になりそうなのを際どいところでこらえて、ありがと、と受け取る。ちなみに赤だしだ。
ずず、と啜ってから一つ目のおにぎりを片付けて――、では、と玉子焼きに箸を伸ばした。
「あ」
俄かに緊張する隣の空気には気付かない振りをして、端に追いやられている一切れを取る。
「ああ」
「・・・何?」
・・・流すつもりだったのだが、分かり易すぎてかえって我慢出来ずに聞いてしまった。
「あ、いや、それ、何か、色悪いし、あの、失敗してるんじゃ、ないかって――あ、」
ぱくっと口に入れると――うん、焦げてる。そして頬に刺さる視線が痛い。
「・・・だからなに、阿良々木くん」
「・・・ッ! べ、べつに? なんでもないぞ?」
そ知らぬ振りで尋ねれば、凄い勢いで前方に向き直る男子高校生の姿があり、いい加減笑いを堪えるのもきつくなってくる。
「そう」
あー、今ざりっとした。多分、砂糖の固まりだろう。
「・・・」
ごくりと嚥下してからおもむろに横を向き、
「・・・この卵焼きさ」
「お、おう!?」
そんな真剣な目で見られたの、もしかして初めてじゃないかい。
「ちょっと見た目悪いけど、甘くて、僕好みだ」
いや、本当だよ?
「・・・そ、そうか! ぼ、僕の親って料理上手だからな! お、おおお美味しいかそうかよかったな!」
まるで自分に良かったなと言っているかのような、嬉しそうな笑顔が零れて――
ちょっと、くらっと来た。
そして追い討ちを食らった。
「――あ」
僕の顔を見た阿良々木くんが、何かに気付いたようにくすっと笑って、頬に手を伸ばして来て、そのまま僕の頬から何かを摘み上げ、
「弁当つけて、どこ行くんだよ」
ぱくりと、米粒を口に入れたのである。
「――――っ」
口に物が入ってなくて、本当に良かった。噴き出すところだ。
何度でも言おう。だから、何で、この子は、こう――!
「・・・阿良々木くんはさー」
他人に不意打ちで顔に触られたショックもあって、
「いいお嫁さんになりそうだよね」
憎まれ口半分の台詞を吐いてしまった。
もう半分は――いや、全部憎まれ口で。
「な、何言ってんだ忍野! 男に向かって、か、かえって失礼だろうが!」
その顔が真っ赤なことにも、今更驚いてなどやるものか。
「誰も貰ってくれなかったら、僕が貰ってあげようか?」
「――――!!」
勿論、全部憎まれ口だ。
「暦お兄ちゃんは家庭的だから」
「阿良々木くんが家庭的なんて設定が、これまでで一度でも出てきたっけ・・・」
(・・・あれ? 忍野さんは凄く納得した顔で、『ああそうだねー』って言ってくれたんだけどなあ・・・)
ついったの、TOSHIさんとのやり取りで生まれた小ネタをメモメモ。
ちょっと前のことなので、どれがどちらの発言だったやら・・・ということで、ご本人の了解を得て、小話にまとめてみました。
暦の初めて作った玉子焼き☆ネタは、さっき貰ったばかりのほやほやですので、もう間違いなくTOSHIさんのです。
他、萌える台詞等は、大体お師匠のだと思います。フヒュウ・・・ぱねえ・・・
暦の、滲み出るお育ちの良さが大好きで、暴走しちゃった! といった所でしょうか。
実際、家庭的だと思うんですよね。パパママ呼びだしね!
まあ、男に弁当差し入れるのはどうかと思いますが、無意識だからね・・・無意識アピールだからね・・・怖い子!(カッ)そら忍野さんだって思わずプロポーズしちゃいますよっていうね。いうね、って。
暦がお母さんに頼んで弁当作ってもらっているシチュエーションだけでも、数時間にやにやしていられます。
ちょっと多めにしてもらったんだろうな、とか、「野菜が足りないだろうから――じゃなくて、食べたいから、入れてくれるかな」とか、あんまりじっと見てるから、やってみる? と言われて一生懸命チャレンジ――とかハアハアハアハア。今日も病気です。
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