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すごく・・・いたしています・・・ので、続きへ。
少し病んでる忍野さん平気でしたら、どうぞです。色んな意味で、いたいです。
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「――っ!!」
先端を挿れただけで、もういっぱいいっぱいだった。彼も、それから僕も。
指で大分慣らしたつもりだったが、それでも初めてそんな異常な事に使われようとしているそこは、本人の意志に逆らって、異物を受け入れまいと必死に抗がっている。
本人の意志――いや、目の前で歯を食い縛って、ぎゅっと瞑った瞼からぽろぽろ涙を零しているこの子自身だって、もう、これ以上は耐えられないだろう。
僕の方も、多少潤わせたものの、初めに押し入れた部分だけであとはびくとも動かせない位にキツいそこに咥え込まれたままで、正直、いいとかよくない以前の問題だ。
「お、しの・・・ごめん」
だから僕は、苦しい息の下から名前を呼ばれた時、こう応えるつもりだったのだ。
謝らなくていいよ、痛いだろう。無理しないで、今日はここで止めておこう。
別に君を傷つけたくて始めた事じゃなし、抜き合いでもすればいいよね。
そんな風に笑ってみせよう、一抹の理性が残っていたことに感謝しながら。
でも。
馬鹿な子供は、荒れ果てた廃墟で固い床に組み敷かれて、後ろに突っ込まれて泣き叫びそうな痛みを堪えながら、そっと、僕の頬に震える両手を伸ばしたのだ。
「ごめん、な。・・・いたい、だろ?」
「・・・・・・え?」
言葉の意味を量りかねた。
いたいから、じゃなくて、いたい、だろう?
「きもちよく、なくて、ごめん」
「――」
苦しげに途切れる声でそこまで言われて、やっと理解する。
この子は、文字通り引き裂かれるような自分の痛みを当たり前のようにすっ飛ばして、僕の、
「でも、たのむから、ぬかないで、くれ」
すぐ、慣れるから、だから。
そう言って泣き笑いを無理に浮かべて、
「はなれないで」
ほんの一瞬、頭が空白になって、それから、何かが、ごっそりと、剥がれ落ちた気がした。
「この――馬鹿」
低く唸るような声は、確かに僕のものだった。
暖かく両頬を包み込む指をむしり取って、殆んど叩きつけるような勢いで床に縫い付け――
力任せに、突き入れた。
「――ッ、あぁ・・・っ!!」
刃物で刺されでもしたかのように、組み敷いた身体が硬直して仰け反る。
それでも腕を押さえられて1ミリも逃げる事など許されず、大きく開かれた脚ががくがくと震えた。
「っ・・・」
一旦先端近くまで引きずり出して、もう一度腰を叩きつける。狭すぎる場所に捩じ込む痛みに、歯を食い縛りながら。
「ひっ・・・ぅあっ、あ――」
彼は激痛に悲鳴さえ上手く上げられない。
見開いた目から涙だけが溢れて、また突き上げる時に雫が床に散った。
「いっ・・・!」
ぶつりという感覚と共に、少し滑りが良くなった。どこか裂けて、血が流れたんだろう。ちょうどいい。
気持ちいいかどうかはもう自分でも良く分からないが、獣じみて熱く硬くなってる僕のは出すまでにはまだ猶予がありそうだから、思う存分かき回して食い荒らしてやれそうだ。
「・・・ぉ、しの・・・っん、あ・・・あ、ああ――ッ」
涙に、悲鳴に邪魔されながら、それでも合間に誰かの名前を呼んで、懸命に伸ばされた腕は無視した。
腕――ああ、いつの間にか僕の両手が彼の手首を開放して腰を掴んでいるからか。
「あっあっ、あっ――」
細い腰を押さえつけて、或いは、太腿を自分の腰へ引き寄せて、揺さ振られて声が途切れているけど、泣きじゃくっているだけで、ちっとも悦さそうになんか聞こえない。
何で、こんな事してるんだっけ。
どこかでぼんやり、そんな声がした。
初めて、彼を抱いて――それで。
彼があんまり馬鹿な事を言うから。
僕なんかを、まるで尊いものか何かのように扱うから、無性に腹が立って、
こわくなって、
そうだ。馬鹿な子供に、思い知らせてやりたくなったのだ。何を。何かを。
ちかづくなって。
君が僕にどんな幻想を抱いているのか知らないし、知りたくもないけれど、怪しい奴にそんな無防備に何もかも捧げたりするから、こんな目に遭うんだよ、って。
辺りはいつも通りとても静かで、僕たちの立てる音がよく響いていた。
荒い息遣いと、少年の悲鳴、肉がぶつかり合う音、今カメラでも回ったら、凄いAVが録れそうだ。
打ち捨てられた廃墟に連れ込まれて、得体の知れないおっさんに犯される女の子みたいな顔の高校生、泣いても叫んでも、助けなんか入らない――か。そっちの人に受けそうだな。
出来るだけ下種な事を考えていると、知らず、腰の動きがせわしくなってくる。
僕はそのまま、何も言わずに、遠慮もせずに、彼の中にぶちまけた。
「あっあっ、――あ、ぁ・・・っ・・・あ・・・っ」
どくどくと注ぎ込まれる感覚に気付いたか、掠れた声が力無く漏れた。
はあっ――と息をついて、彼の顔の横に肘を付いて倒れ込んだ。
一時の吐精の快感が引いていくのと入れ替わりに、泥の様な後悔が腹の底から湧き上がって来る。
何て言うべきかなんて、何ひとつ思いつかない。
ただ、自分がやらかした事を被虐的に反芻して、意味も無く嗤った。
「おしの・・・・・・」
ああ――どうしようかな。このまま、放り出して寝ちまおうか。
そうしたらきっと、ラクだろうな。
ふわり、と。
その時、頭に触れる感触があった。
のろのろと上げられて、ぱたりと落ちた腕が、僕を抱き締めたのだ。
「、あ――」
「おしの・・・・・・忍野」
不思議と、その声だけは掠れずに、澄んだ音で耳に届いた。
「阿良々木、くん」
呟いて、ゆっくりと顔を上げる。
「なん、だよ・・・その顔」
僕の首に腕をかけたまま、少年――阿良々木くんが、泣き腫らした目で微笑んだ。僕は今、一体、どんな顔をしているのだろうか。
「――よかった、ちゃんと、できた、な」
「――」
呆けている僕に阿良々木くんは、照れたように、嬉しそうに、そう告げた。
・・・何を言ってるんだろう。
この子は、まさか今のがまともなセックスだとでも思ったのだろうか。
散々悲鳴を上げて、逃れようと無意識に身を捩るのを止めなかったくせに。
「ちゃんとなんて――出来てないだろ」
「え・・・・・・あ――でも、忍野は、出せたし」
「・・・君は? 君は、まさか、今の、嫌だって、思わなかったのか」
今の、ただの暴力を。
じっと見詰めて問い質した。問い質さずにいられなかった。
阿良々木くんは、きょとんと僕の目を見返して、やがて何処か後ろめたい事でもあるような顔になる。
「あ、その・・・・・・ちょっと、いたかったけど、・・・・・・うれしかったから、な」
散々悲鳴を上げて、無意識に身を捩って、僕の肩にしがみついて――
――一度も、「やめろ」とは、言わなかった、けれど。
「きみ、は」
正直、ゾッとした。
うれしい、だなんて。
君は心底ドM野郎か、よもや、相手が僕だったからなんて言うのなら、
「頭が、おかしいよ」
何だろう、痛い。
喉が。胸が。
内臓が剥き出しになったら、こんな風に寒気がして酷く痛いのだろうか。唐突にそんな事を想像した。
嗤っているのに苦しくて、もう一度彼の顔の横に顔を伏せた。
当たり前のように腕が回されて、もう一度、そっと抱き締められる。
「忍野・・・」
優しい声を耳元で聞き、柔らかい羽根で包まれるような不思議な感覚と共に、どうしようもないくらい僕は理解した。
「おかしい、かもしれないけど・・・本当、だから。忍野がなんか怒ってるのは、分かったけど・・・それでも、いやだって思えなかったんだよ」
ごめんな。こんなに、好きになって――。
阿良々木くんを傷つけるなんて、僕には到底出来ない事なのだと。
暫くその思いに打ちのめされてから、僕はおもむろに腕を身体と床の間に入れて、掬い上げるように阿良々木くんを抱き締めた。
「ねえ、阿良々木くん」
「うん・・・?」
「優しくしても、いいかい」
僕がいいかどうかなんてもうどうでもいいから、君にうんと優しくしたい。
痛くした場所全部にキスをして、可愛がって、気持ちよくして。
「返事、してよ」
前髪をかき上げて綺麗な額に唇を触れながら、身勝手に問い掛ける。
「あ、え――」
真っ赤になった阿良々木くんが、どう返事を返したものかと口篭る。
「僕はもう、君が許してくれる事しか、出来ないから」
この子の恋情は絶対に何処かおかしいけれど、それなら、それに持って行かれる僕の方だって、相当おかしいのだろう。
だったら、いい。この頭のおかしな子供は、僕が引き取るし、
どこかの寂しい子供は、この子に引き受けてもらうんだ。
やってるだけだった・・・(そのコメント)。
急に、あったまおかしい阿良々木くんと、それにビビる忍野さんがこう・・・降ってきてですね。むらっときてやった。すいません。
タイトルの英単語は一応全部ぼにーぴんくの歌のタイトルの、その英単語のつもりで並べました。
Addictionなんてもう、ヤンデレ忍野さんきたあー! と膝を打ったものです。
『病んだ自分を癒すものを求めても 叱らないで』
下にその後のえろしーん抜き書きをしてみました。
ひたすらいちゃいちゃ。ざー(砂糖)。
「やっ・・・ちょ、忍野、どこ舐め、て、やあっん!」
「さっきの傷と血、やっぱり殆ど消えちゃってるね・・・もう、中も痛くない?」
「痛くない!いたく、ないからぁ・・・っやだ、中、だめぇ・・・っ」
「ああ、ほらちゃんと膝付いて、もうちょい腰上げて。よく見えないから」
「見、んなぁっ――あっだめ、だめ、まえ、いっしょに触っちゃ、ふぁあっ」
「うん、もう大丈夫かな・・・綺麗なピンク色に戻ったよ、よかったね」
「――っば、こ、この、馬鹿・・・っよく、ないぞ! 馬鹿忍野! おまっ、や、ん、僕が許さないと何も、ぁんっ、しないって――」
「あー・・・あれね。これはえーとねー・・・うん、優しくする、の一環だから。セットセット」
そっちはお許しを頂いたからねー。
「ご一緒にポテトもいかがですかみたいな事を――ひゃあぁんっ!」
「いやいや、むしろご一緒に僕の――痛って・・・! 蹴らないでよ酷いなー」
「うるさい! 馬鹿! エロオヤジ! あっ・・・v」
しーてるーだけー(投げやりに言う資格は無いからね?)。
阿良々木くんを簡易ベッド机の上に乗せて、四つん這いにして怪我チェック。
暫くしたら治るからという必死の訴えは無視されました。
ところで、阿良々木くんのあえぎ声の語尾に全部「v(はーとのつもり)」をつけると、一気に男性向け風になりますよね!はーとのついてるあえぎ声、可愛くて気持ち良さそうで好きー。
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――誓うよ。
君を害する全てのものから守ってあげる。
暴力からも、悪意からも、絶望からも、誘惑からも、
そして勿論、僕の欲望からも。
その為に君がどんなに傷ついたとしても、決して汚れる事のないように――
暦が大事すぎて、両想いって分かっているのに決して触れようとしない忍野さん。
実際、ナイトみたいだしなあ・・・と、妄想しておりました。
で、冒頭のような事をついったで呟いておりましたら、素晴らしき頂き物をしました・・・っ!
大好きなメメラギサイト、HEAVENWORDの桐島カンナ様より、騎士の忍野さんと、姫(?)の暦の、小さなおとぎばなしを、一つ。
いざ、パラレルワールドへ。
「なあ忍野。お前のその残酷な忠誠がたとえ僕を殺すのだとしても、お前は僕に触れてさえくれないんだな。」
「うん・・・ごめんね。僕はきみの---騎士だから。」
自分の心に決して応えずに、それでも愛よりももっと深い眼差しで、跪いたまま見上げて来る最愛の男へ暦は悲しげに微笑んだ。
暦は、明日には他の男のものになる。
それは意に添わぬ事だったが、暦に拒む力は無かった。
ならばせめてその前に、生涯で唯ひとり愛した男にたった一度抱き締めて欲しいと願った。
けれど。
願いを頑なに、それ処か触れる事さえを拒んだ男は、暦に剣を捧げてくれた暦だけの騎士だった。
「うん・・・ごめんね。僕はきみの---騎士だから。」
自分の心に決して応えずに、それでも愛よりももっと深い眼差しで、跪いたまま見上げて来る最愛の男へ暦は悲しげに微笑んだ。
暦は、明日には他の男のものになる。
それは意に添わぬ事だったが、暦に拒む力は無かった。
ならばせめてその前に、生涯で唯ひとり愛した男にたった一度抱き締めて欲しいと願った。
けれど。
願いを頑なに、それ処か触れる事さえを拒んだ男は、暦に剣を捧げてくれた暦だけの騎士だった。
「忍野。僕に忠誠を誓うと云うのなら、口付けを。」
暦はゆっくりと、その白い手を差し伸べる。
縋る目をして、泣き出しそうな笑顔で。
それでも。
「・・・・御意。なんてね。」
ゆっくりと進み出た忍野は、その求めて震える指先に触れてはくれず、床に長く曳いた黒衣の裾を、ゆっくりと取って口付けた。
「・・・・お前は本当に徹底してるんだな。」
「自分を戒めているんだよ、阿良々木くん。」
「・・・・そっか。」
小さく呟いて、暦は静かに瞳を閉じた。きつく唇を噛み締めて。
「なあ、忍野。」
「何だい?」
「すまないが、そこのグラスを取ってくれ。」
忍野は暦の示したサイドテーブルの上を見た。
そこには美しい細工のデキャンタの横に、一杯だけ透明な赤い飲み物の注ぎ分けられたグラスがあった。
「それを飲んだら、もう休むから。」
「・・・・・・。」
忍野はすっと立ち上がってそのグラスを取り、暦に手渡した。
「ありがとう。」
暦はグラスを受け取るふりをして、頑なに触れる事を拒む男の手にそっと触れる。
「卑怯だね、阿良々木くん。」
「はは・・・ごめんな。でも、最後だから。」
淡く笑って、忍野の手に微かに触れた指先を胸に抱く。
そして暦は、忍野がくれたグラスの中の致死性の毒をあおった。
たった一口で十分だった。
毒は暦の身体を廻る。
暦はグラスを傾け、残りの液体を床に撒いた。
誰も、自分を追わないように。
姉妹も、友人も---そして最後まで自分に触れる事を拒んだ最愛の男さえも、これから自分の往く煉獄へ来れないように。
「さよなら、忍野。」
暦の瞳から、堰を切ったように涙が溢れた。
お前に触れて欲しかった。
もっとシンプルで直載な愛で、出来るなら縛りつけて欲しかった。
願わくばお前をこの手で捕まえて、抱き締めてキスしたかった。
暦の柔らかな唇から、一筋の血が流れ落ちた。
「阿良々木くん?!」
お前がお前なりの愛し方を貫くと云うのなら、僕もまた、僕の愛を貫こう。
お前が僕に触れないのなら、僕もまた、お前以外に一指たりとて触れさせはしない。
ゆっくりと---まるでスローモーションのようにその柔らかな髪の残像を残し、暦は床へ崩れ落ちる。
「阿良々木くん!!」
それを抱き留めた忍野は色を失ってそのいとおしい名を叫んだ。
「ああ・・・忍野。」
夢に迄見た、夢でしか触れられなかった腕に抱かれながら、暦は胸元に血を吐いて、笑った。
「嬉しいよ、忍野。」
血塗れの指先が、そっと忍野の頬に触れ、そして力を失って冷たい床へと落ちた。
---やっと、お前を捕まえた。
「さよなら、忍野。」
暦の瞳から、堰を切ったように涙が溢れた。
お前に触れて欲しかった。
もっとシンプルで直載な愛で、出来るなら縛りつけて欲しかった。
願わくばお前をこの手で捕まえて、抱き締めてキスしたかった。
暦の柔らかな唇から、一筋の血が流れ落ちた。
「阿良々木くん?!」
お前がお前なりの愛し方を貫くと云うのなら、僕もまた、僕の愛を貫こう。
お前が僕に触れないのなら、僕もまた、お前以外に一指たりとて触れさせはしない。
ゆっくりと---まるでスローモーションのようにその柔らかな髪の残像を残し、暦は床へ崩れ落ちる。
「阿良々木くん!!」
それを抱き留めた忍野は色を失ってそのいとおしい名を叫んだ。
「ああ・・・忍野。」
夢に迄見た、夢でしか触れられなかった腕に抱かれながら、暦は胸元に血を吐いて、笑った。
「嬉しいよ、忍野。」
血塗れの指先が、そっと忍野の頬に触れ、そして力を失って冷たい床へと落ちた。
---やっと、お前を捕まえた。
いかがでしょうか・・・悲恋エンドきたこれです! ちょっ・・・美しい・・・!
元々は拍手コメントで頂いたのですが、これ、私だけしか見られないなんて勿体無い! そんな贅沢をしたら通風になっちゃいますから! と泣きついて、アップ許可を頂きました。
快諾に感謝! 本当にありがとうございます!
の歌詞って、帰れなくなったメメラギっぽい・・・
と、あてどなさすぎてついったーでも呟けなかったことを、ここで呟いて眠るのさ俺は(誰だお前)。
――かつてそこには、家へと帰る道があった。
「もう、帰れなくなっても、構わないかい」
というわけで、「忍野さんが歌うとしたらどんな曲?(by撫子さん)に横から送るリクエストは、
『まどろむ暦に膝枕しながら、ぼそぼそとビートルズの歌を』
ついったログまとめです。TOSHIさんにお付き合い頂きました!
今回は趣向を変えまして、ログそのままではなく、それぞれちょっとずつ推敲して、摺り合わせてみました。
どちらがどちらの、文字色変えも無しで参りますので、共作という事でご覧頂ければと思います。
告白の、ワンシーンです。
「・・・もうお前なんかにはぐらかされないからな」
ありったけの勇気を振り絞って発した声は、微かに震えていた。
仄かに見える彼の顔。暗がりの中で常と同じように見える彼の顔が、僕の言葉に決定的な色をすとんと落とす様を僕は見た。
決定的な―――それまで確かに其処に存在していた、友愛の色を。
「・・・勇敢だなあ」
す、と忍野の目が細められた。
「・・・」
こんな目で見られた事が、今までで一度でもあっただろうか。
こんな、冷たい――いや、冷たいとすら感じない、他人を見るような、酷薄な眼差し。
「僕が男、しかも君みたいな、さしたる取り得も無いガキに、本気で構うと思ったのかい?」
――足が、もう少しで震えそうだ。
怖い。忍野という男が、ひとたびその意思を以って人を威圧しようとすれば、これ程までの空気を纏えるという事を、僕は初めて知った。
しかし、それよりも何よりも恐ろしいのは、
今退き下がれば、忍野はもう二度と僕を見てくれなくなるという事が、はっきりと分かってしまう事、だった。
「だから言ったろ。―――はぐらかされてなんか、やらない」
「別にはぐらかしてるわけじゃないよ。本当に、本気で嘘偽り無く忍野メメは阿良々木暦の事なんかなーんにも思っちゃいない。・・・ちょっと自意識過剰なんじゃないのかい、阿良々木くん」
「自意識過剰?」
は、と鼻で笑う。
だが忍野はその挑発にさえぴくりとも反応しない。明らかに常の彼とは異なる瞳を持ってして、彼は僕を淡々と眺めていた。
「自意識過剰大いに結構じゃないか。何がいけない? 言ってみろよ忍野、自意識過剰の何が悪い」
カツカツと、それほど無かったお互いの距離を更に詰める。
忍野は何も言わない。拒絶も感心も彼は口にしない。ならば僕はその距離を詰めるだけだ。
詰めれば詰めるほど互いの距離は明確に失われていく。されどいくら距離を詰めようとも、一向に彼を間近に感じる事は出来なかった。
僕なんかじゃその影を掴むことすら出来ない、ひどく、遠いひと。
―――けれど、
「・・・それに、お前も言っただろう?」
カツン、と音が途切れる。
同時に、僕はぐい、とその胸倉を引き寄せた。
届かないからなんだというのだ。掴むことすら出来ないからなんだというのだ。
そんなこと―――知ったことか。
「僕は勇敢なんだ―――今更、お前の優しさなんかに怯えてやらない」
微かに揺らいだ瞳を睨むように覗き込んで、僕は低く言い放った。
「・・・優しさ?」
「――そうだ。お前は僕に手を出していつか僕を置いて行く事になるのがそしてその時に僕を完膚なきまでに傷つけるのが嫌なんだ。そうやって僕を守ろうとしている。・・・そんな優しさはいらないし、怖くない」
「――傷つくって言葉の意味も、知らないくせに」
「僕はとっくに傷物だよ。それに、僕は・・・お前に傷つけられたいんだ」
「・・・君は本当にドM野郎だね。自分から傷つけられたいとか、頭おかしいんじゃないのかい」
「おかしくない。・・・それにな、忍野」
傷つくという言葉の意味も知らないと、お前が言うのなら。
「教えてくれよ―――お前が、僕に傷を付けてくれ」
お前のものだという、一生消えない傷を。
そっと忍野の手を僕の首元へと持っていって、まるで懺悔するようにそう呟いた。
「・・・本当に、消えないよ?」
いつか思い出す度に、抉られるように痛いんだよ?
「――そうなのかもな。でもそれは忍野、お前も背負ってくれるんだろう?」
頚動脈を撫でられながら、もしかしたら忍野が負う傷は、僕と――僕の前の、誰かの、2人分かもしれないなと、よぎる。
「本当に勇敢だなあ――それに、」
残酷だなあ。
そう言って笑う顔があんまり切なげで、僕は、
「・・・もう一つ。卑怯者」
「わ、るい――」
理由も分からない涙を、止める事が出来なかった。
「それでも僕に傷を付けて欲しいのかい。消えない傷を、消せない痕を」
頚動脈を撫でる手が止まる。
消えないと、消せないと。まるで彼は最期を告げる審判のような重苦しい声で、その言葉を、僕の欲しい言葉を。
忍野の冷たい指先から、彼のたとえようが無いほどの感情がひしひしと伝わって―――それがどうしようもなく、いとおしくて。
「―――つけてくれ」
傷を、お前という傷痕を、
「僕に、刻み込んでくれ―――・・・」
ぎりっ、と首筋に走る痛みにそっと瞳を閉じて、僕は彼の存在を一心に感じた。
「・・・ああ、やっぱりすぐに治っちゃうね・・・まあでも、体の傷なんていつかは治るし」
やがて小さな呟きと共に、忍野の指が離れた。
首筋を辿っていた――という表現は些か生温い。僕の頚動脈の真上に爪を立てて、薄く皮膚を破りながら、端から治ろうとする其処を何度も何度も抉っていた――指が離れ、目蓋を上げるよりも先に、ふわりとした感覚に包まれた。
忍野が、固く張り詰めていた僕の体を、柔らかく抱き寄せたのだ。
「――おし・・・の・・・っ」
背中に、頬に感じる温もりに、緊張の糸がぷつりと切れたようだった。
突き上げてくるような嗚咽に任せて目の前のシャツに縋り付けば、そっと背中を撫でられて、優しい声が降って来る。
「ごめん、沢山意地悪言ったね。怖かったろうに」
「・・・っ、――!」
高い壁のような拒絶のすぐ後に与えられた慰撫の言葉は余りにも温かくて、嬉しくて、悲しくて、甘い。
「君があんまり勇敢で――僕のほうが、怖かったんだよ。もう、しないよ」
低く穏やかなその声に、きっと、優しくされるほうが後から辛いんだろうなと、頭の隅で、思った。
「す、き・・・っ」
彼から与えられる、痛みを伴う優しさ。
心臓をそのまま抉り取られるような痛みだとしても、僕はそれが欲しくて欲しくて仕方なかった。
「好き、だ・・・・・・好きなんだ・・・っ」
零す度にぽろぽろ溢れ出る痛みと涙。
極上の砂糖菓子のように甘い痛みは僕にはひどく甘くて。
甘くて甘くて―――ひどく、死にたくなった。
「おし、の・・・ぉ!」
子供のように恥ずかしげも無く嗚咽を漏らして縋りつく僕を、忍野は嬉しそうな、けれど何処か痛みに耐えるような常の彼らしくない笑みを浮かべて
「・・・僕も好きだよ。ずっと好きだった」
ずっと、欲しかった。
「――ごめんね」
もう一度だけ謝って、忍野は、ぎゅうっと僕の体を抱き締めた。
謝るなよ忍野。お前が謝るたびに、この腕の熱が冷める時を想って死にそうになるんだ。
「離すな。この腕を、この手を、」
この熱は冷めない。この夢は覚めない。
たとえそれが―――傷痕だとしても。
「僕を離すな―――・・・」
終末の夢を謡いながらお前の空言を愛するから。
だからせめて今だけは、僕をお前の空言に溺れさせてくれ。
「うん――離さない」
そう言った忍野の腕が、声が、一瞬震えたように感じたのは、気のせいだったのかもしれない。
『あの人に嫌われる? 無関心より まし ね』
タイトルは勝手に付けさせて頂きました。チャラです。
「忍野ー、差し入れ持ってきてやったぞー」
「おお、悪いね阿良々木くん、100円セールかい」
「違うよ、今日はこれ」
そう言って彼が掲げて見せたのは、どこかのデパートの紙袋と、魔法瓶だった。
コーヒーでも持って来てくれたのかな、僕はブラックがいいけど、忍ちゃんが飲めないかなあ。
それにしても本当にこの子は気遣いくんというか、育ちがいいというか。
・・・あまり打ち解けられるのも、困るんだけどなあ。
そんな風に思っている僕の横に腰掛けて、阿良々木くんが取り出したのは、・・・タッパー?
「お前も忍も、甘いものばっかじゃ体壊すと思ってな」
「・・・はあ」
ぱかっと開いたそこには、青々とした小松菜か何かのおひたしと、ふわりと巻かれた玉子焼きが、きちんと並んで鎮座していた。――いや、何か、端っこのほうに、少し歪んで色の悪いのも一つ。焦げてるのかな。
「ちゃんと野菜摂らないと。あと、いつもパンじゃ駄目だぞ」
久しぶりの光景に思わず見入ってしまっている僕を尻目に、阿良々木くんがさらに紙袋から取り出したのは、彼の手の平に少し余るくらいの、アルミホイルの包みだった。
「それ、おにぎり?」
「ああ。開けてみないと分からないけど、海苔が巻いてあるのが梅干かおかか、ちょっとゴマがかかってるのが鮭な」
「・・・はあ」
「あとこっちが」
魔法瓶を手に取る阿良々木くん。この流れだと、お茶かな。
「味噌汁」
「うわ」
思わず声が出た。
「うん? ・・・嫌いか?」
「あーいやいや、好きだけど・・・随分、手が込んでるなあって思ってね」
「ああ、マ・・・母に頼んで、作ってもらった。僕が食べるからって言ってさ」
「へえー・・・」
分かってるのかなあ、この子は。
このシチュエーション、まるっきり、『男は胃袋を掴め』みたいな様相を呈している気がするんだけれど。餌付けとも言う。
これは、効く。僕みたいな放浪者には、特に。肉じゃがより味噌汁って、どっかで聞いた気もするし、いや完璧だよ阿良々木くん。驚くのは、それをやってのける君が、男子高校生だってことくらいさ。
いや、勿論他意は無いんだろうけれど。
阿良々木くんが僕の胃袋掴んでもしょうがないし・・・狙われても困るし。
・・・とは、言うものの。
「阿良々木くん、せっかくだし、今頂いてもいいかい」
「えっ?」
えっ、て。
僕の問い掛けに何故か過剰に反応する阿良々木くんに一つの確信を得た僕は、じゃあここは遠慮したほうがいいなと思いつつ――体の脇に蓋を開けたタッパーを置いて、アルミホイルの包みを一つ手に取った。
「あー・・・いいぞ、もちろん。うん、まあ、そうだな、せっかくだから、な、うん」
阿良々木くんは何やらブツブツ言いながら、微かに頬を赤くしている。
「じゃ、いただきます」
手を合わせていると、横から箸を渡された。ちゃんとした塗り箸だ。
包みを剥いてみると、海苔のいい香りが漂った。一口齧ると、あ、梅干だ。御飯がふっくらしていて、美味しい。
「・・・久しぶりだなあ、こんな食事」
それは素直な感想だった。おひたしは薄く出汁が効いていて、これまた美味しい。
「だろうな。コンビニが多いんだろ、どうせ」
「うん、そうだね。というか、ここ数年の僕の体は、ほぼコンビニ弁当で出来てるね」
「お前それ体壊すからな、真剣に」
しみじみと家庭の味を噛み締めていると、阿良々木くんが隣で文句を言いながら、魔法瓶の蓋を開けた。
とぽぽぽと音を立てて湯気の立つ味噌汁が注がれる。
「ん。熱いから気をつけろよ」
うわあ。何で両手で渡すかなあ。
この子は何と言うか・・・男の(僕のとは言わない)ツボを突くのが、妙に上手いんだよな・・・。
遠い目になりそうなのを際どいところでこらえて、ありがと、と受け取る。ちなみに赤だしだ。
ずず、と啜ってから一つ目のおにぎりを片付けて――、では、と玉子焼きに箸を伸ばした。
「あ」
俄かに緊張する隣の空気には気付かない振りをして、端に追いやられている一切れを取る。
「ああ」
「・・・何?」
・・・流すつもりだったのだが、分かり易すぎてかえって我慢出来ずに聞いてしまった。
「あ、いや、それ、何か、色悪いし、あの、失敗してるんじゃ、ないかって――あ、」
ぱくっと口に入れると――うん、焦げてる。そして頬に刺さる視線が痛い。
「・・・だからなに、阿良々木くん」
「・・・ッ! べ、べつに? なんでもないぞ?」
そ知らぬ振りで尋ねれば、凄い勢いで前方に向き直る男子高校生の姿があり、いい加減笑いを堪えるのもきつくなってくる。
「そう」
あー、今ざりっとした。多分、砂糖の固まりだろう。
「・・・」
ごくりと嚥下してからおもむろに横を向き、
「・・・この卵焼きさ」
「お、おう!?」
そんな真剣な目で見られたの、もしかして初めてじゃないかい。
「ちょっと見た目悪いけど、甘くて、僕好みだ」
いや、本当だよ?
「・・・そ、そうか! ぼ、僕の親って料理上手だからな! お、おおお美味しいかそうかよかったな!」
まるで自分に良かったなと言っているかのような、嬉しそうな笑顔が零れて――
ちょっと、くらっと来た。
そして追い討ちを食らった。
「――あ」
僕の顔を見た阿良々木くんが、何かに気付いたようにくすっと笑って、頬に手を伸ばして来て、そのまま僕の頬から何かを摘み上げ、
「弁当つけて、どこ行くんだよ」
ぱくりと、米粒を口に入れたのである。
「――――っ」
口に物が入ってなくて、本当に良かった。噴き出すところだ。
何度でも言おう。だから、何で、この子は、こう――!
「・・・阿良々木くんはさー」
他人に不意打ちで顔に触られたショックもあって、
「いいお嫁さんになりそうだよね」
憎まれ口半分の台詞を吐いてしまった。
もう半分は――いや、全部憎まれ口で。
「な、何言ってんだ忍野! 男に向かって、か、かえって失礼だろうが!」
その顔が真っ赤なことにも、今更驚いてなどやるものか。
「誰も貰ってくれなかったら、僕が貰ってあげようか?」
「――――!!」
勿論、全部憎まれ口だ。
「暦お兄ちゃんは家庭的だから」
「阿良々木くんが家庭的なんて設定が、これまでで一度でも出てきたっけ・・・」
(・・・あれ? 忍野さんは凄く納得した顔で、『ああそうだねー』って言ってくれたんだけどなあ・・・)
ついったの、TOSHIさんとのやり取りで生まれた小ネタをメモメモ。
ちょっと前のことなので、どれがどちらの発言だったやら・・・ということで、ご本人の了解を得て、小話にまとめてみました。
暦の初めて作った玉子焼き☆ネタは、さっき貰ったばかりのほやほやですので、もう間違いなくTOSHIさんのです。
他、萌える台詞等は、大体お師匠のだと思います。フヒュウ・・・ぱねえ・・・
暦の、滲み出るお育ちの良さが大好きで、暴走しちゃった! といった所でしょうか。
実際、家庭的だと思うんですよね。パパママ呼びだしね!
まあ、男に弁当差し入れるのはどうかと思いますが、無意識だからね・・・無意識アピールだからね・・・怖い子!(カッ)そら忍野さんだって思わずプロポーズしちゃいますよっていうね。いうね、って。
暦がお母さんに頼んで弁当作ってもらっているシチュエーションだけでも、数時間にやにやしていられます。
ちょっと多めにしてもらったんだろうな、とか、「野菜が足りないだろうから――じゃなくて、食べたいから、入れてくれるかな」とか、あんまりじっと見てるから、やってみる? と言われて一生懸命チャレンジ――とかハアハアハアハア。今日も病気です。